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ブログ - 投稿者

Anseiさんの日記

2013
1月 29
(火)
09:18
ライフ・オブ・パイ
カテゴリー  未分類
本文
台湾出身で今やハリウッド有数の監督に登りつめたアン・リー監督が4年の歳月をかけて完成させた労作である。原作はカナダの作家Yann Martelの同名ベストセラー。洋上で救命ボートに取り残された16歳のインド人少年パイと200キロを越すRichard Parkerと呼ばれるベンガル虎の227日にわたる漂流生活を描いた映画だ。

ほとんど映画化は不可能と言われた題材に監督はどう挑んだのか?彼は大胆にも3D方式を選択し、実写した虎をベースに徹底したCGI (computer generated imagery)を駆使して信じられないほどリアルなベンガル虎をスクリーン上に再現した。今までのCGIによる猛獣や怪獣はどんなに上手く作ってもどこかに“作り物”の風情が拭えなかったのだが今回は違った。あまりにもリアルで少年が味わう背筋が凍るような恐怖を観客自身も全身で味わうこととなった。

パイは年齢に応じて3人の俳優が演じている。12歳のパイをAyuash Tandon、16歳のパイをSuraj Sharma、中年のパイをIrrfan Khan、いずれも好演である。パイの生まれ育ったのはかつてフランス統治下にあったインド南部の都市。生まれながらのヒンズー教徒でヴェジタリアンでありながらパイはキリスト教、イスラム教にも接し、宗教に深い関心を抱いて成長した。この映画を成立させている第2の要素はパイの宗教心である。どん底の逆境にありながら絶望することなく最後まで生き抜くことが出来たのはパイの真摯な神への渇仰、信頼であった。大きな魚を網で捉えた時「ヴィシュヌ神よ、そなたは魚の形になって私たちの飢えを救って下さった。有難う!」、凄まじい嵐に見舞われながら、「私は神を見た。あなたは私に試練を与えながら希望をくださる。私はあなたに感謝する。有難う!」と涙ながらに叫ぶ。アン・リー監督はパイのspiritualな側面を息を呑む映像美で表現した。「水」をこれほど美しく表現した映画を私は知らない。撮影監督Claudio Mirandaの力量に脱帽である。

これは信じがたい冒険譚を宗教心と絡めて表現した“寓話”ではない。リアルな映像を見た観客はこれを“あり得るストーリー”と信じてしまう―まさに“magic realism”の極到なのだ。またRichard Parkerを決して擬人化したりはしない。途中でパイを慕い、愛情を持つような柔(やわ)な虎ではなく、最後まで野生を貫き通す。また3Dの使用は極めて抑制的で、いたずらにセンセーショナルな効果を求めるものではない。あくまでのパイの内面表現を補佐する役目に徹している。

しかし、この宗教に対する扱いが欧米では賛否を分けているらしい。ほとんどの日本人にとってパイの神に対する態度には容易に共感できる。ところが一神教のもとで育った人たちのリアクションは別である。“無神論者”であれ“敬虔なキリスト教徒”であれ、パイの2股、3股をかけた宗教心には拒否反応を示す人が多いのだ。「曖昧でいい加減な“神に対する渇仰”など気持ちが悪い」というのである。欧米の無神論者は我々の曖昧な無神論とは違って、神学論をぎりぎりと突きつめた上での無神論を展開する。無神論者も敬虔なキリスト教徒も1枚のコインの表裏なのである。ある米国人の映画評論家は「洋上の素晴らしい映像はさておき、パイの神に対する思いを聞き、すべてが崩れてしまった。この映画は存在しなくなってしまった。私はこの映画は見なかった」とさえ述べている。この論者はmagic realismにたいする反感も語っている。欧米のインテリはあまりにも素晴らしいmagic realismには「騙されてたまるか」と本能的に敵意を抱くようなのだ。

なにはともあれ“ライフ・オブ・パイ”は息を呑むスリル、美しい映像、主人公のspiritualityがあいまった傑作と私は評価したい。
また、出演者のほとんどはインド人で訛りの強いインド英語を話すが、実際に現地で接する人たちの英語にくらべればはるかに聴きやすいことを付言しておきたい。


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投稿者 スレッド
投稿日時: 2013-1-29 21:50  更新日時: 2013-1-29 21:50
ダイヤモンド
登録日: 2010-5-23
居住地: 神奈川県
投稿数: 4208
 RE: ライフ・オブ・パイ
Anseiさん

久しぶりの映画評論、面白く拝読しました。ま、見てみないと、お説の意味はよくわからないわけですが、事前の情報として、過不足なく読ませてもらいました。

専門的すぎないこのような、大衆にも喜ばれそうな映画のご紹介、ぜひお願いいたします。

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